例えるなら、空だ。
絆のように繋がっている電線の上を飄々とした顔で見守る。
貴女を例えるなら、空だ。
そういった僕を、まるで雲みたいだ、と、貴女は言う。さわやかに笑って。
あたしを時に覆い隠し、時に流され、時に大きな声で泣いて。
それでいて一緒に居てくれる。と貴女の口は僕を語る。
確かに僕は雲だ。僕はうなずく。
貴女の居る場所が僕の居場所。僕は柔らかに貴女を覆い、守る。
貴女の中は、僕でいっぱいになる。
僕は雲だ。
納得してつぶやいたら、貴女は隣で面白そうに笑った。
綺麗に綺麗に笑った。まるで5月の空みたいに。
でも、本当にあの時から僕たちのこの関係は空と雲だった。
僕はいつだって貴女のためにいろいろ姿を変えたし、大声で泣いた。
ヒトの声に流されても、それでも決して貴女から離れなかった。
そんな僕のもとでずっと貴女は空で居続けた。
貴女はどこへもいかなかった。
けれど
一度も僕たちの心は重なることはなかった。
僕が雲である限り、貴女は空であり続けた。
雲の上に広がる空は、いつだって綺麗。
そして、どんなに僕が一緒に居ても貴女と交わることはない。
それが雲だ。
貴女は僕になんか気にもとめず、くるくると色を変えるのだ。
だから、僕は雲だ。
そういって空を眺める。
オレンジのワンピースがはたはたとはためく。
そこから伸びるあなたの2本の足は白くて綺麗だ。
僕は手に持ったジュースを一口のみ、
ただ、貴女のあとをついていく。